
今回の記事は、普段と少し違う語り口で書いています。
転職したときに感じた「気持ちの揺らぎ」を振り返る内容なので、すこし静かなトーンでお届けしますね。
条件は理想的だった
転職すれば、すべてが好転する。
そう信じて選んだ職場だった。
家から近く、残業はほぼなく、週30時間勤務で正社員待遇。
人間関係も悪くはなく、設備も新しくてきれい。
条件だけを見れば、これまでで一番の“当たり”だったかもしれない。
転職活動の際に出会ったその薬局は、通勤のしやすさと柔軟なシフト、そして年収のバランスが取れた、非常に条件の良い求人だった。
面接では、「ぜひ来てほしい」と責任者の方に言っていただき、実際の雰囲気も穏やか。
清潔感のある店舗で、働いている方たちもみな親しみやすく、これといった不安はなかった。
就業開始後も、実際に残業はなく、週30時間という破格の時短就業の中でしっかり休憩も取れた。
人間関係も予想通り良好だった。
だが──
働き始めてすぐ、私は心のどこかに“モヤモヤ”を抱えていた。
安心して働けない理由
最初に気になったのは、薬歴の運用方法だった。
事前に「電子薬歴」と聞いていたが、簡単な手書きメモをスキャンして取り込むだけのものだった。
履歴として残るのは直近の1回分程度で、指導内容の連続性や過去の経過を把握するのが難しかった。スピード重視するあまり、薬歴を確認する作業など入るスキはなかった。
そして、調剤体制にも疑問が残った。
- 小児向けの散薬予製剤には、印字や確認用のラベルが貼られていなかった。
- 調剤時の秤量以後はダブルチェックがなかった。
- 忙しいときは、複数人で調剤から薬袋に入れるまでを同時に行うスタイルだった。
- 最終確認せず投薬するので、投薬後に間違いに気づいて患者さんを追いかけたこともあった。
- そもそも、監査という工程自体が存在しなかった。
誰かがルールを破っているというより、“そういう文化”が根づいている職場だった。
そして、それに慣れた人々に囲まれながら働いているうちに、
私自身の感覚も、少しずつ麻痺していくのを感じていた。


声を上げられなかった理由
この職場には、明確な悪意も、ギスギスした人間関係も存在しなかった。
それどころか、皆さんとても親切で、仕事外でも優しく接してくださった。
だからこそ、私は「これって本当に大丈夫なんですか?」とは言えなかった。
長年そのやり方でやってきた管理薬剤師とスタッフ。
業務がうまく回っているように見える中で、転職してきた私だけが水を差すのは違うと思った。
一人だけ声を上げて空気を乱す勇気がなかったし、
そもそも、私が間違っているのではないかという不安さえあった。
そして私は、気づかぬうちにその職場に“合わせる”ようになっていた。
ストレスの正体


ある日ふと、自分の中に強いストレスがあることに気づいた。
身体はラクなはずなのに、気持ちがいつもザワついている。
仕事中も、帰宅後も、考えているのは「このままで本当にいいのだろうか?」ということばかりだった。
薬剤師としての倫理観や安全意識と、
現場の“当たり前”とのギャップに、私はどんどん苦しくなっていった。
このまま何か起きたら、自分は患者さんに、家族に、説明ができるのか?
それを思うと、毎日が静かなプレッシャーの中にあった。
条件が良くても、働けない職場はある
この経験を通じて、私は「条件がいい=自分に合う職場」ではないことを痛感した。
むしろ、条件が良いことで「これくらい我慢しなきゃ」と思い込んでしまい、
自分の違和感に蓋をしてしまうこともある。
職場を辞める理由は、何も人間関係だけではない。
「体がしんどいから」「収入が低いから」でもない。
私の場合は──
“安心して働けない”ということ自体が、最大のストレスだった。
やがて薬局が運営母体ごと変わることになり、そのタイミングで私は退職を決めた。
本音は、体制やルールへの不安だったが、それを職場の誰にも言わずに辞めた。
今だから言えること
転職は、人生の大きな選択である。
だからこそ、私たちは「良い条件」をどうしても重視してしまう。
でも、実際に働く上でいちばん大切なのは、“自分が納得して働けるかどうか”である。
その“納得”は、求人票にも、面接にも書かれていない。
見学や質問を通じて、自分の価値観と合うかどうかを見極める必要がある。
たとえば──
- 薬歴の記録や共有の方法
- 調剤・監査のルールや工程
- 患者対応の方針
- 過誤や疑義照会への姿勢
面接時にすべてを聞くのは難しいが、
「ここ、気になるな」と感じたら、その違和感は無視しないでほしい。
まとめ
私はこの転職を、完全に失敗だったとは思っていない。
人に恵まれ、就業条件にも助けられた。
けれど、自分の中の“これでは働けない”という声を無視し続けたことで、
結果的に「後悔した」と言わざるを得なくなった。
条件だけでは測れない。
信念や不安を飲み込んでまで、そこに居続ける必要はない。
この記事が、今まさにモヤモヤを抱えて働いている方に、
「自分の感覚を信じてもいい」と伝えるきっかけになれば嬉しい。



▶ 安心して働ける職場を選べた話(第5話)では、
納得して働けた転職先について書きました。
……なのにまた、調剤過誤の怖さに震えて退職するとは💦
「何やってんだろ私」って思わないわけじゃないけど、
結局それも必要な通過点だったんだと思います。
私にとっては、やっぱり「安心して働けるか」がいちばん大事なんですよね…。
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