この記事では、私自身の転職経験をもとに、年収アップ転職にまつわる現実と、転職前に押さえておきたい視点についてお伝えします。
このテーマは、40代・50代で「今の働き方にモヤモヤしているけれど、年収のことも気になる」という薬剤師さんに向けて書いています。私自身の失敗や気づきをもとに、リアルな視点でお届けできればと思います。
1. 「年収アップ成功談」の裏側にあるもの
薬剤師の転職サイトでは「年収アップしました!」という成功談をよく見かけますが、その多くは“結果”だけが切り取られており、「なぜ年収が上がったのか?」というプロセスが見えにくいのが実情です。
特に40代・50代の転職では、年収アップが意味するものや、そこに至るまでの背景は、20代・30代とは大きく異なります。若い世代では、キャリアアップやスキル獲得を目的とした前向きなチャレンジがしやすい一方で、40代・50代になると、体力の変化や家庭・ライフスタイルとの両立など、現実的な制約も増えてきます。
そのため、転職における「年収アップ」は、単なる給与の増加というより、「どんな働き方で」「どんな代償があるか」をセットで捉える必要が出てきます。
2. 年収アップを叶えやすいのは、限られたパターン
薬剤師として年収を上げられる転職には、一般的に以下のような限られたパターンがあります。

ただ、これはどちらかというとキャリアアップを目指す男性薬剤師や若い世代に多く、家庭との両立や体力的な問題を考えると、40代・50代の女性薬剤師が目指しやすいルートではありません。
また、以下のような「負担増」によって年収が上がるケースもあります:
- 残業や遅番が増える(生活リズムや体力面への影響)
- 少人数で在宅業務メイン(責任や業務負担の増加)
- 管理業務・店舗運営の範囲が拡大(業務の裁量や責任が広がるため)
いずれも、収入は増えても時間的・体力的コストが大きく、継続しづらいと感じる人も少なくありません。
また、転職サイトに掲載されている「年収600万円以上可」といった求人の裏側には、店舗管理や休日出勤、幅広い業務対応が含まれていることがあり、条件の数字だけで判断するとギャップに苦しむこともあります。
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3. 資格やスキルアップで年収は上がる?

薬剤師の中には、自己研鑽を続けて専門性を高めようとする方も多く、私もそうした仲間を心から尊敬しています。実際に、休日に学会へ参加したり、自費で講習を受けたりしてスキルアップに励んでいる方もいます。
ただ、その努力が給与に十分反映されるかというと、まだまだ難しいのが現実です。
たとえば、私が保有している「認定薬剤師」や「実務実習指導薬剤師」の資格も、給与アップに直結したという実感は正直ありません。
- 実務実習指導薬剤師は、実習生受け入れ期間のみ手当がつくことが多い
- 認定薬剤師は、施設基準やかかりつけ薬剤師の要件として必要になってきており、もはや“持っていて当たり前”という扱い
がん専門薬剤師など、専門資格によっては職場によって手当や評価につながることがあります(出典:薬読)。
ただし、こうした資格取得には、時間やお金がかかるうえ、取得後も学会への継続加入や年会参加、症例報告の提出、単位取得など、維持にも手間がかかります。
もちろん、専門性を高めて臨床の現場で活躍したい方にとっては、大きなやりがいにつながる取り組みです。
一方で、「年収アップだけ」を目的とするなら、こうした努力に見合う成果が得られないこともあるため、自分が何を優先したいのかを明確にしておく必要があります。
資格やスキルアップは大切な努力ですが、「収入面でのリターン」を期待しすぎると、現実とのギャップに戸惑うこともある──その点は心に留めておきたいところです。
4. データから見る薬剤師の年収事情とその考察(2023年調査/2024年発表)
4-1. 年齢別平均年収(男女計)
年代 | 平均年収 |
---|---|
20代 | 約423万円 |
30代 | 約586万円 |
40代 | 約636万円 |
50代 | 約692万円 |
※出典:賃金構造基本統計調査(2023年調査/2024年発表)

やっぱり40代・50代って高いように見えるけど、その分責任や負担も増えてるってことよね…。
📌 考察:
40代以降の年収の伸びは緩やかで、若い頃よりも「頑張っても上がりにくい」現実が見えます。働き方の見直しや自分に合った職場選びがより重要になる年代です。
4-2. 性別比較(40代・50代で差が拡大)
年代 | 男性平均年収 | 女性平均年収 |
---|---|---|
40代 | 約723万円 | 約593万円 |
50代 | 約797万円 | 約611万円 |
※出典:賃金構造基本統計調査(2023年調査/2024年発表)



この差…けっこう衝撃じゃない?同じ年代でも、こんなに違うんだもの。
📌 考察:
年齢が上がるにつれて男女間の賃金差は広がります。背景には、育児・介護による就業制限や昇進機会の違いなど、構造的な課題が潜んでいる可能性があります。
4-3. 業種別平均年収
業種 | 求人ベースの年収 | 実データの平均年収 |
---|---|---|
病院薬剤師 | 約402〜542万円 | 約521〜569万円 |
調剤薬局薬剤師 | 約429〜597万円 | 約584万円 |
ドラッグストア薬剤師 | 約447〜594万円 | 約514〜528万円 |
製薬企業(MR含む) | 約550〜700万円 | ― |
※出典:賃金構造基本統計調査(2023年調査/2024年発表)・各種求人データ



求人では高めに見えても、実際には…ってこともあるのよね。数字だけで飛びついちゃダメ。
📌 考察:
求人票の年収と実態には乖離が見られます。とくにドラッグストアは想像より実年収が伸びないことも。役職・残業込みの数字に注意が必要です。
4-4. 都道府県別 平均年収(調剤薬局勤務薬剤師/2023年)
順位 | 都道府県 | 平均年収(万円) |
---|---|---|
1位 | 青森県 | 653.5万円 |
2位 | 長崎県 | 646.2万円 |
3位 | 岩手県 | 638.2万円 |
4位 | 山形県 | 637.5万円 |
5位 | 秋田県 | 636.1万円 |
… | … | … |
46位 | 神奈川県 | 524.5万円 |
47位 | 東京都 | 519.1万円 |
※出典:賃金構造基本統計調査(2023年調査/2024年発表)



地方の方が高いのは、やっぱり人手不足とかが影響してるのかも。東京が最下位なのはちょっと意外!?
📌 考察:
地方の方が高年収になっている傾向がありますが、移住や通勤環境、生活費とのバランスも考える必要があります。単純に「地方が稼げる」とは言い切れません。
5. 年収の“価値”は人それぞれ
年収アップを目指すことは悪いことではありません。
ただ、40代・50代の薬剤師にとって「年収が高い=満足な働き方」とは限らないことも事実です。
- 家族との時間を大切にしたい
- 無理なく、長く続けられる働き方をしたい
- 責任の重すぎない職場で、目の前の患者さんと丁寧に向き合いたい
──そう感じる方も多いのではないでしょうか?
私自身、年収が爆発的に上がった転職はありませんが、「調剤の安全対策がしっかりしている」「薬歴が電子化されていて記録が合理的」 「残業ゼロで定時に帰れる」といった職場に出会えたことで、精神的なゆとりを得ることができました。
結果的にプライベートの時間も確保でき、気持ちに余裕を持って働けています。
これは、私にとって“年収以上の価値”があると感じています。
▼関連記事:薬剤師の転職、年収よりも大事にしたこと。納得して働ける職場を選んだ話
まとめ:転職は“納得して働けるか”を軸に考えよう
年収アップはたしかに魅力的な目標ですが、その裏側には負担やリスクがあることも忘れてはいけません。
40代・50代の私たちが転職を考えるとき、大切なのは、
- 安心して働ける職場か
- 無理なく続けられる働き方か
- 価値観の合う人と仕事ができるか
といった、年収以外の視点も含めた“納得できる働き方”ではないでしょうか。
いまの年収に満足しているなら、転職しないという選択肢も立派な判断です。
焦らず、自分のペースで向き合っていくことが、40代・50代の私たちにとっていちばん大切なのかもしれません。
あなたがこれから大事にしたいものは何ですか?
その答えが見えたとき、きっと迷いなく前に進めるはずです。
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