薬剤師が調剤薬局へ転職するとき、「大手か中小か」で迷う人は多いでしょう。
大手は経営基盤の安定や設備投資の強さがあり、小規模や個人は柔軟さがあります。
この他にもそれぞれに特色や長所・短所があり、多くの価値観がある中でどこが正解かは一概には言えません。
大切なのは 「転職に何を優先するか」 です。
私は5回の転職と2回のM&Aを経験してきました。
若い頃は「やりがい」や「経験」を求めましたが、年齢を重ねるにつれ「安全性」「人員配置」「法令遵守」を優先するようになりました。
給与アップを求めて転職した経験もありましたが、期待したほど満足感はなく、むしろ働きやすさや安心感の方が長く続ける上では欠かせないと実感しました。
この記事では、大手・中規模・小規模(個人)の薬局を比較し、
それぞれのメリット・デメリットを体験談を交えて整理します。
「安全性」「人員体制」「法令遵守」の3つの視点で見ると、
安全性や法令遵守を重視するなら大手・中規模チェーンが比較的安定。
人員体制のゆとりを重視するなら小規模・個人薬局が向いており、
バランスを求めるなら中規模チェーンがその中間にあたります。
40代・50代の薬剤師が、自分に合った転職先を考えるヒントになれば幸いです。
1. 薬剤師の転職、「大手・中規模・小規模(個人)」どこを選ぶべき?

1-1. 薬剤師の転職先選びは「何を優先するか」で変わる
調剤薬局への転職基準の一つとして、「大手」「中規模」「小規模(個人)」のどこを選ぶかがあります。
大手は経営基盤が安定しており、教育や福利厚生、情報の仕組みが整っています。
中規模はその中間で、自由度はあるものの体制面は会社によって差が出やすいです。
小規模・個人は柔軟に働ける一方で、設備投資や在庫管理、法令遵守などが経営者の考えに大きく左右されます。
他にも色々ありますが、こうした特徴を理解せずに立地や年収、勤務時間など条件だけで選んでしまうと、
「こんなはずじゃなかった!」と後悔することになりかねません。
だからこそ、転職では自分が何を優先するかを明確にすることが大切です。
もし働きたい求人先が見つかったら、その薬局が大手なのか中規模なのか、小規模(個人)なのか──経営母体の状態をきちんと確認しましょう。
逆に、先に「自分はどの規模の薬局で働きたいか」を決めてから求人を見るのも一つの方法です。
いずれにせよ、会社の経営規模をしっかり見ておくことが、後悔しない転職につながります。
1-2. 40代・50代薬剤師が転職で重視しやすいポイント
40代・50代の薬剤師といっても、転職で重視する基準は人によって違います。
一家の大黒柱として家計を支える方であれば、給与やキャリアアップを優先するかもしれません。
一方で、この記事で想定しているのは「管理職を目指さず、できるだけ安心して長く働きたい層」です。
この世代では、体力や家庭の事情を考えると、無理なく続けられる環境を選ぶことが大切になります。
そのために特に注目したいのは、次の3つのポイントです。
- 安全性:調剤過誤を防げる仕組みや設備が整っているか
- 人員体制:無理のない人数で回していて、休みも取りやすいか
- 法令遵守:自己流や曖昧なルールではなく、法令に沿った体制になっているか
ハルコ給与や役職を追いかけるよりも、安心して働き続けられる環境を見極めることがより重要な視点じゃないかしら。
2. 大手薬局で働くメリット・デメリット


大手で働くうえで感じた主なメリット・デメリットを、私の経験も交えて紹介します。
2-1. 大手のメリット
◎経営基盤の安定
・薬価改定や制度改定で収益が減っても、資金力があるため経営が大きく揺らぎにくい。
・ルール変更・報酬改定時には本部が早く対応策を整え、システム改修や業務フローの変更を現場に周知できる体制も整っている。
・「M&Aされる側」になる心配が少なく、むしろ他社を買収する立場になることが多い。そのため中小規模のように「急に会社が変わってしまう」不安は比較的少ない。倒産リスクが低い。



“この会社、来年も大丈夫かな…”って考えなくていいのは、ほんとに大きい。経営の安定は、心の安定にもつながりますね。
◎設備投資・システム導入が進んでいる
・調剤機器や電子薬歴の整備により、業務が効率化され、調剤過誤を防ぐ体制も強化されている。
・新しいシステムの導入スピードも早く、どの店舗へ行っても同じ環境が整っているため、異動があっても操作に戸惑いにくい。



調剤過誤防止機器や在庫連携など、この機械があって助かった!って思う場面、けっこうあります。
手作業が減る分、安心して患者さんに向き合えますね。
◎教育・研修制度が整っている
・本部主催の定期研修・eラーニング・階層別研修などが充実している。
・新人・中途・ブランク明けなど、立場に合わせた研修プログラムが用意されている。
・配属店舗が変わっても、共通マニュアルで安心して業務を進められる。



知らないままで放置されることがないのはありがたい。
研修で他店舗の薬剤師さんと話せるのも刺激になります。
◎福利厚生が充実
・産休・育休・介護休暇などの制度が整っており、実際に利用している社員も多い。
・復職後の時短勤務制度もあり、ライフステージに合わせて働き方を調整しやすい。
・健康診断や社宅制度など、会社独自のサポートが用意されているケースもある



人員不足など現場の課題はあるけれど、福利厚生が手厚いからこそ、産休・育休・時短勤務を選ぶ女性薬剤師は多い印象ね。
2-2. 大手のデメリット
◎人員体制は最低限でギリギリ
・一見ゆとりがあるように見えても、実際は最低限の人数で回していることが多い。
・欠員が出ても補充や応援がなかなか決まらず、現場の負担が続く。
・「充足している」と判断された店舗は、他店への応援や異動が頻繁に発生する。
・年5日間の有給休暇は形式的に取得できても、希望日には休めないケースもある。



“お互いさま”で応援に行くのはいいけど、続くとさすがに疲れますよね。
◎細かいルールやマニュアルに縛られる
・在庫・書類・レセプト・届出など、事務系業務に細かな承認手順や報告ルールが多い。
・本部とのやり取りは書類やクラウドでの決裁中心。IT化は進んでいるが、工程が多く時間がかかる。
・ルール変更が頻繁で、現場がその都度対応に追われることもある。
・法令遵守の意識が高い環境では安心感がある一方、柔軟に動きたい人には窮屈に感じることも。



きっちりしてて安心と思う反面、もう少し柔軟でもいいのに…って感じることあります。
◎数字・実績を求められる
・昇給や賞与を公平にするため、数値目標で評価する仕組みが導入されている。
・かかりつけ・在宅・後発品使用率など、加算点や指標の達成状況を定期的に報告する必要がある。
・数字で判断される一方で、患者対応の丁寧さやチームワークは評価されにくい面もある。



企業の透明性と公平さを保つためには、業績も社員の評価も数値化が欠かせません。
それでも、数字だけでは見えない努力や思いもありますよね。
◎異動や転勤の可能性がある
・店舗数が多く、人員調整のために本部の判断で異動が発生することがある。
・「全国」「エリア限定」「通勤圏内のみ」など本人希望が前提になるが、通勤圏内の異動は断りにくい。
・転居を伴う場合は手当が出るものの、生活環境が変わる負担もある。



やっと人がそろって落ち着いたと思ったら、すぐ誰かが異動…
そんな繰り返しに、ため息が出ることもありますよね。
◎調剤以外の業務が多い
・管理薬剤師や薬局長になると、本部や上長との報告・会議が増える。
・役職がなくても、在宅やかかりつけ、在庫・物販など担当業務を任されることが多い。
・調剤以外の事務作業に追われる日が多い。



日常業務やりながら、報告書や申請書の作成、土曜日はオンライン会議…そして報告書…大体のことは報告や申請が必要だからずっとパソコンの前にいる気がします。
事務作業の多さは、大手ならではだと思います。
3. 小規模・個人薬局で働くメリット・デメリット


小規模・個人薬局で働くうえで感じる主なメリット・デメリットを、私の経験も交えて紹介します。
3-1. 小規模・個人のメリット
◎給与水準が高い傾向がある
・大手より基本給・年収が高い求人が多く、即戦力として優遇されやすい。
・年収交渉の余地があり、経験・スキルに応じて柔軟に設定されることも。
・福利厚生は控えめでも、手取りベースでは大手を上回る場合がある。
・利益配分の柔軟さや固定費の低さが、高給与を実現しやすい理由のひとつ。



求人票を見て“大手より高い!”と思うこと、ありますよね。
その理由は、大手が事業拡大や設備投資に力を入れているのに対し、
小規模ではその分を人件費に回しやすいからなんです。
◎人員配置にゆとりがある職場も多い
・大手は基本的にギリギリの人数で回す傾向がありますが、小規模・個人薬局では比較的余裕のある人員配置がされていることが多い。
・経営者が現場の状況を把握しているため、欠員時のサポートや調整も柔軟に対応してくれるケースがある。
・無理なシフトや残業が続かない分、心身ともに余裕を持って働ける。



“人が足りてない”と言われて入ったけど、
大手の人手不足とは意味がまったく違って驚きました。
小規模・個人薬局では残業も少なく、空いた時間は雑談しててもOK。
ゆとりの感覚が、まるで別世界でした。
◎経営者との距離が近く、意見が通りやすい
・現場の声が直接経営者に届きやすい。
・改善提案がすぐ採用されるなど、風通しが良い職場も多い。



“こうしたい”をすぐ伝えられるのは小規模の強み。
自分の意見が形になるのはうれしいですよね。
◎自由度が高く、柔軟に対応できる
・マニュアルや承認手順に縛られず、現場判断で動ける。
・患者さんの事情に合わせた柔軟な対応がしやすい。



“明日からやってみよう”が通るのは小規模ならでは。
話が早いって、働くうえで意外と大事です。
3-2. 小規模・個人薬局のデメリット
◎経営者の考え方に左右されやすい
- 経営者の意向や資金状況によって、業務や方向性やが大きく変わる。
- 大手が“仕組み”で動くなら、小規模は“人”で動く。
- 結局、どんな経営者のもとで働くかが、働きやすさを左右する。
- 社内独自の研修はほぼないので、個別で行かせてもらえるかどうかも経営者しだい。



同じ小規模・個人薬局でも、経営者が変わると雰囲気もガラッと変わる。経営者の考え方ひとつで、働きやすさも居心地も全然違うんですよね。
◎設備や体制の整備が遅れがち
▽IT化・設備面の遅れ
・勤怠や経理・人事などの社内管理が紙ベースなことが多く、タイムカードや手書き書類による運用が今も続いているところが多い。
・調剤過誤防止システムが導入されていない薬局も多く、安全対策の意識に差がある。
・設備投資が後回しになり、機器の更新やメンテナンスが不十分なケースも。
・患者情報のやり取りを、経営者やスタッフが個人スマホ(LINEなど)で行うケースもあり、情報管理面で不安が残る。



勤怠も紙、申請も手書き。患者さんの情報共有はメールではなくLINE…
“便利さより慣れ”で続いてる感じがして、ヒヤッとするときあります。
患者さんの情報って、本来もっと慎重に扱うべきなんですよね。
▽情報更新・法令対応の遅れ
・調剤報酬改定や行政手続き、講習の案内などの最新情報が現場に届きにくい。
・大手のように本部が情報を一括管理していないため、経営者や一部スタッフの判断に頼りがち。
・保険調剤のルールや解釈が古いまま運用され、独自ルールが残っている薬局もある。
・結果として、情報対応の精度は経営者やスタッフの意識に大きく左右される。



改定や講習の案内が出ても、誰も気づかないまま締切が過ぎることも… 大手ではありえないことだけど、小規模だと本当に“人頼み”なんですよね。
◎人間関係が密で、こじれると逃げ場がない
・スタッフが少なく、関係が濃くなりやすい。
・ちょっとした意見の違いが職場全体の空気に響く。
・異動がほとんどないため、関係がこじれると退職しか選べないこともある。



うまくいけば最高だけど、こじれたら一気にしんどくなる…
小規模の“距離の近さ”は紙一重ですね。
◎経営の変化リスクが大きい
・医療機関の閉院や処方減で、収益が急に落ちることがある。
・後継者不在や経営者の高齢化により、将来の経営が不透明になりやすい。
・経営者の判断でM&Aや事業譲渡が行われ、環境が一変するケースもある。



“明日からオーナーが変わります”なんて話、本当に他人事じゃないですよね。経営が安定しているように見えても、実はいつどう変わるかわからないのが現実です。
👉 関連記事:「調剤薬局のM&A後には何が待ち受けている?」
4. 中規模チェーン薬局という“中間の立ち位置”
一般的には、10〜100店舗ほどを展開する薬局を「中規模チェーン」と呼ぶことが多いようです。
ここで取り上げる“中規模”は、エリア内で10〜20店舗ほどを展開している地域密着型のチェーンを指しています。
大手ほど全国展開ではないものの、ある程度の本部機能を備え、エリア内で複数店舗を運営しているタイプです。
本部の仕組みやルールがある程度整っており、給与や福利厚生も安定しています。
一方で、店舗ごとの裁量も残っていて、雰囲気にはかなり差があります。
“仕組みで動く大手”と、“人で動く個人薬局”の中間に位置し、
経営者や管理部門が現場をよく見ている会社では、バランスのとれた働き方ができるのが特徴です。
ただし、この“中間”という立ち位置は、裏を返せばどちらに転ぶか分からないということ。
組織づくりが整っていれば安心して働けますが、
管理体制が追いついていない会社では、方針が曖昧で現場に混乱が生じやすい一面もあります。
また、M&Aの対象になりやすく、経営方針が急に変わることも。
「地域密着型」といっても、経営者の判断ひとつで一気に拡大路線に転じるケースもあります。
安定と柔軟さの両方を持つ一方で、会社によって振れ幅が大きいのが中規模チェーンの特徴です。



中規模って聞くと“ちょうどいい”って思うけど、
実際は“会社によってまったく違う”んですよね。
仕組みが整ってるか、トップが現場を見てるか──そこが分かれ道です。
中規模チェーンは、大手と個人の“間”というより、どちらの特徴をどれだけ持っているかで働きやすさが変わります。
規模よりも、会社の方向性や経営者の姿勢が自分に合っているかを見極めることが大切です。
まとめ


転職で大事なのは「自分の優先順位」
どの規模の薬局にも、良いところと課題があります。
だからこそ、自分が何をいちばん大事にしたいかをはっきりさせることが大切です。
私が最初に挙げた3つの視点──
「安全性」「人員体制」「法令遵守」で見ると、それぞれにこんな特徴があります。
◎安全性・法令遵守を重視するなら
→ 大手や中規模チェーンが比較的安定しています。
制度改定への対応や調剤過誤防止の仕組みなど、
本部が主導して整備しているため、安心して働きやすい環境です。
◎人員体制のゆとりを重視するなら
→ 小規模・個人薬局が向いています。
経営者が現場を直接見ているため、休みの調整がしやすいこともあります。
ただし、職場によっては人員が偏り、責任が集中しやすい場合もあるので注意が必要です。
◎バランスを重視するなら
→ 中規模チェーンがその中間にあたります。
安全性・人員・法令の3つがある程度整っており、
自由と安定のバランスを取りながら働けるケースが多いです。
ただし、会社ごとの方針や体制の差が大きく、“見極め”が大切です。
◎私の結論
どんな職場にもルールは必要だと思っています。
ただ、大手ではがんじがらめに感じ、小規模ではゆるすぎて不安になりました。
私にとっては、その“中間”にあたる中規模チェーンがいちばんしっくりきました。
それでも、完璧な職場はありません。
安全性を重視するのか、人員のゆとりを取るのか、法令遵守を最優先にするのか──
自分が何を優先したいかを明確にすることが、後悔しない転職につながると思います。
どんな規模を選ぶにしても、
「自分が何を優先したいか」を明確にしておくことが、後悔しない転職につながります。
👉 関連記事:アラフィフ薬剤師が転職で学んだ“3つの視点”
👉 関連記事:調剤薬局のM&A後には何が待ち受けている?
-どこがいい?.png)
コメント