調剤薬局のM&A後には何が待ち受けている?

40〜50代女性薬剤師の悩みと2度の体験から見えた現実

調剤薬局のM&Aは、今や全国どこでも起こりうる出来事です。
私自身もこの数年で、2度のM&Aを現場で経験しました。

「会社が変わっても同じ薬局で働けるのなら、転職とは違うのでは?」
そう思う方も多いかもしれません。
たしかに、顔なじみの患者さんや一緒に働くメンバーはそのままです。
しかし、会社が変わればルールや方針は大きく変化します。
表面上は同じ薬局に見えても、実際に働く自分にとっては「前とは違う職場」になっていくのです。

この記事では、私の体験をもとに

  • M&A後に起こる変化
  • 40〜50代女性薬剤師ならではの迷いや葛藤
    をお伝えしていきます。
目次

1. M&Aとは?調剤薬局でなぜ起こるのか

M&Aとは、企業の合併(Merger)や買収(Acquisition)を意味します。
調剤薬局の世界でも珍しいことではなく、むしろ全国で日常的に起こっています。

実際に、厚生労働省や民間の調査会社のデータを見ても、ここ10年ほどで調剤薬局のM&A件数は増加傾向にあります。
中小規模の薬局が大手チェーンに吸収されるケースが特に目立ちます。

ミナ

M&Aって大企業のニュースかと思ってましたけど…薬局でも普通にあるんですね。ちょっと驚きました!

ハルコ

そうなのよ。私たち薬剤師にとっても“他人事じゃない”の。どこの薬局でも起こり得ることだからね。

ミナ

じゃあ、どうして薬局のM&Aがそんなに増えてるんでしょう?

ハルコ

理由はいくつかあるのよ。次の章でお話しするわね!

2. なぜ調剤薬局でM&Aが増えているのか【背景と理由】

では、なぜ調剤薬局のM&Aはここまで増えているのでしょうか。
厚労省や業界調査でも繰り返し指摘されていますが、背景にはいくつかの共通した理由があります。

  • 経営者の高齢化と後継者不足
     個人薬局や中小規模の薬局では、経営者が高齢になっても跡を継ぐ人がいないケースが多く見られます。
  • 調剤報酬・薬価の引き下げ
     薬局の収益源である調剤報酬は年々引き下げられており、単独で経営を続けるのは厳しい状況です。
  • 在宅医療やICT化への対応
     電子薬歴やオンライン資格確認などの対応が進む中、小規模薬局にとっては設備投資や人材育成の負担が大きくなっています。

こうした要因が重なり、M&Aを選択する薬局は全国的に増えています。
そのため、調剤薬局のM&Aは「どこか遠い場所の特別な出来事」ではなく、全国どこでも起こりうる、ごく身近な変化だといえるのです。

ミナ

なるほど…でも“調剤報酬の引き下げ”って、現場で働く私たちにどう関係するんですか?

ハルコ

たとえば、同じ処方箋を応需しても薬局の利益は昔より減っているの。
だから経営はシビアになるし、人員や設備投資にも影響してくるのよ。

ミナ

それって、現場の忙しさや人員不足にも直結しそうですね…

ハルコ

そうなの。
調剤報酬が下がれば経営は厳しくなるし、人員削減や業務量増で現場に無理がかかる。結局M&Aされてしまって、働き方そのものが変わってしまうのよ。

3. 全国で広がる調剤薬局M&Aの現状データ

では、実際にどのくらいM&Aが行われているのでしょうか。
M&Aキャピタルパートナーズの調査によると、

2023年度第2四半期だけで、主要5社(アインHD・日本調剤・クオール・メディカルシステム・ファーマライズ)が127店舗を取得。
これは前年通期49件をすでに大きく上回る数です。

さらに、同社の調査では

「自分の周囲でM&Aを経験した薬局がある」と答えた経営者が43.8%。
今後「M&Aを検討する」と答えた薬局も44.8%に上りました。

このように数字で見ても、調剤薬局のM&Aは決して特殊なものではなく、むしろ“ごく身近に起こり得ること”であることがわかります。

ミナ

数字で見ると、想像以上に多いですね…

ハルコ

でしょ?だから「うちの薬局は関係ない!」とは言えないのよ

ミナ

ハルコさんは実際に2回も経験されてるんですよね、どんなだったかお聞きしたいです!

ハルコ

そうね、実際に私が経験したことを話していくわね。

4. 私が経験した調剤薬局のM&A体験談

4‐1 M&A:完全吸収による転籍

最初のM&Aは「子会社化」という形でした。
大手から社員が出向し、社長や部長職に就きました。
現場の社員目線ではありますが、会社の基本方針をはじめレセコンや日々の業務の流れはほとんど変わらず、一部卸の帳合や制服の変更など軽微なものでした。
社員の多くも、この変化は受け入れていた印象で、数年間この状態が続きました。

ただ、次に訪れた「完全吸収による転籍」では状況が一変しました。
社員全員に知らされたのは、実施のわずか3か月前。
最初に子会社化した親会社がM&Aすることに。
転籍までの短期間に、全社員の個別面談が行われ、給与等の条件確認・契約を実施。
店舗においては業務変更のスケジュールが次々に発表され、M&Aの実施前後は目も回るほどの忙しさでした。

ミナ

給与条件って大きく変わったんですか?

ハルコ

総額はほとんど同じ。でも、基本給は下がって手当が増える形だったの。調整給という手当は期間限定だったし、いずれ手取りが減る予想はついたけど、転籍直後の賞与はほぼ満額支給されたわ。

ミナ

それなら“悪くない条件”に見えますね。

ハルコ

ええ。でも“手当頼み”だから、楽観はできなかったのよ。

4‐2 M&A:転籍後に直面する変化

条件交渉ののち転籍となり、並行してさまざまな変更が進みました。

  • ポスレジやレセコン、薬歴ソフトなどシステムの切り替え
  • 開設者変更に伴う書類作成や行政への申請
  • 社内規則や組織体制の大幅な変更
  • 最後は屋号変更で完結…
ハルコ

昨日までのやり方が、急に通用しなくなる感覚だったわ。
通常業務をやりながら、様々な説明会、eラーニングでの学習等も求められ、現場は常に変化に追われていたわね。

ミナ

それは大変ですね… 準備期間も短いのに、負担が大きそうです。

4‐3 M&A:続出する退職者、ついに私も…

転籍前後には、旧本社社員や他店舗の薬剤師・事務員が、「退職する」という声があちこちから聞こえてきました。
私は「もう少し様子を見よう」と残りましたが、正直、不安と戸惑いの中で必死に働き続けていました。

とりわけ辛かったのは、人員はそのままなのに業務量が増えていったことです。
会社としては36協定を前提に「できるだけ残業をせずに回す」という方針でしたが、現場の実情とは大きなギャップがありました。

ハルコ

仕事は増えているのに、残業を減らせって…どうやって回すの?って思ったのよね。

さらに、個人にはかかりつけ薬剤師の算定回数など、細かな数値目標が課されました。
店舗単位でも、在宅契約数、ジェネリック医薬品使用率、不良在庫の削減状況まですみずみチェックされ、あらゆる業績がより可視化される仕組みに。

健全な企業として万全な体制をとられていたのは間違いありません。
しかし、「患者さんのため」という言葉と実際に数字を追う現実の間でジレンマを抱え、私は最終的に退職を選びました。

完全吸収による転籍で大きな変化を体験した私は、正直「もうM&Aはこりごり」と思っていました。
しかしその後、新しく転職した個人薬局でも、わずか半年でまたM&Aに直面することになったのです。

4‐4 個人薬局でのM&A

その後、転職して半年ほど勤めた個人薬局でも、再びM&Aに直面しました。
オーナーが高齢により引退されるためでした。
就労条件や給与体系はできるだけ維持されると説明されましたが、私はどうしても薬局のやり方になじめず(詳細はこちらをご参照ください)M&Aのタイミングで退職することにしました。

ハルコ

一度経験していたからこそ、“今度は早めに動こう”と決められたのよ。

ミナ

なるほど…経験があるかないかで判断のスピードも変わるんですね。

5. 40〜50代女性薬剤師の悩みと葛藤

M&Aを経験したとき、私が一番悩んだのは「増えていく業務や急な変化についていけるのか」ということでした。
慣れてきたはずの業務が次々と変わり、効率や数字を重視する仕組みが導入される中で、戸惑いや疲れを強く感じました。
現場で働く以上、変化に合わせるしかない──そう分かっていても、心はなかなか追いつきませんでした。

では、転職すれば解決するのか? そう単純でもありません。
M&Aで多くの同僚が退職した一方、残って転籍を選んだ人も少なくありませんでした。
新しい職場に飛び込めば、人間関係も業務フローもゼロから学び直すことになり、それはそれで大きなエネルギーを必要とします。

この迷いは、きっと私だけのものではないはずです。
年齢を重ねるほど、気力や体力の衰えを感じますし、家族を養う立場であれば転職はより慎重にならざるを得ません。

  • 「定年まで安定して働きたい」
  • 「大きな変化に今から対応できるだろうか」
  • 「新しい職場に飛び込む勇気が持てるだろうか」

40〜50代の薬剤師なら、誰しもこんな気持ちを抱くのではないでしょうか。

6. まとめ

調剤薬局のM&Aは、今やどこでも起こり得る出来事です。
企業にとっては透明化や効率化を進める大切な手段ですが、現場で働く私たちにとっては、日々の業務や働き方に大きな影響をもたらします。

そして、残るにしても辞めるにしても、どちらを選んでも不安はつきものです。
だからこそ大切なのは、

周囲に流されず、自分の軸で判断すること。

「私にはこの道が合っている」──そう思える選択をしたなら、その先に待つのは不安だけでなく、新しい経験や成長のチャンスでもあります。

M&Aは、避けられない変化かもしれません。
でも、変化をどう受け止めるかは自分次第。
選んだ道を前向きに歩んでいけば、きっと納得のいく働き方につながっていくはずです。

👉 「もしもの備え」については、別の記事で詳しくまとめています。
40代・50代薬剤師も備えておきたい!辞めなくてもできる転職活動と市場価値の話

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